第 2 回:Broadway & Hollywood — 実効効率の極致
Wii のメイン CPU 「Broadway (ブロードウェイ)」 は、ゲームキューブの 「Gekko」 の設計を正当に継承したプロセッサです。IBM の PowerPC 750 ファミリーに属し、汎用プロセッサの 「PowerPC 750CL」 と極めて近い設計を共有する兄弟機です。Broadway 向けの設計が先行し、そこから 750CL へ展開されたとも言われていますが、IBM は両者の直接的な派生関係を公式には明らかにしていません。
アーキテクチャ自体は Gekko から大きな変更は加えられていませんが、これは GC 用に極限まで最適化されたコードをそのまま 100 % 走らせるための、任天堂の強いこだわりでした。性能向上は、主に製造プロセスの微細化による 「高クロック化」 によって達成されましたが、特筆すべきはその電力効率です。Broadway は高負荷時でもわずか数ワットで動作し、ファンレスに近い冷却機構でも運用可能なほどの低発熱を実現。微細化で得られた余裕を 「パワー」 ではなく 「静音性と小型化」 に振り分けるという、Wii 哲学を象徴するチップと言えます。
Wii システムの真の核となるのが、システム LSI「Hollywood (ハリウッド)」です。前世代の Flipper を設計した ArtX の遺伝子を継ぐこのチップは、単なる GPU (Graphics Processing Unit) ではなく、メモリコントローラ、DSP、そして後述する Starlet プロセッサを内包する巨大なハブです。
Hollywood の最大の特徴は、メインメモリである 24 MB の 1T-SRAM (MEM1) を、チップ内に封入している点にあります。これを SiP (System-in-Package) 構造 と呼びます。
ゲームキューブ時代は外部バスを介していたメモリ接続を、チップ内部で直接結合。物理的な距離をゼロに近づけることで、メモリレイテンシを極限まで削減しました。この「ボトルネックを徹底的に排除する」トポロジーこそが、カタログ上のポリゴン数では測れない、Wii のキビキビとした動作感と実効スループットの源泉となっています。
Wii のメモリ空間は、GC 互換を保つための「MEM1」と、Wii 専用に新設された広大な「MEM2」という二階建て構造になっています。
| 名称 | 容量 | バス幅 | 種類 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| MEM1 | 24 MB | 64 bit | 1T-SRAM | GC 互換領域、メインゲームロジック、テクスチャバッファ |
| MEM2 | 64 MB | 32 bit | GDDR3 SDRAM | Wii チャンネル、IOS (OS)、ネットワーク/USB バッファ、Mii 関連データ |
Broadway (CPU) は MEM1 と MEM2 の両方を主記憶として利用できますが、両者は別のアドレス領域とメモリアリーナとして管理されます。Revolution SDK も、MEM1 と MEM2 それぞれの境界を取得・設定する API と、複数アリーナに対応したメモリ管理ライブラリを提供しました。開発者は「低遅延を重視するデータは MEM1 へ、容量を必要とするデータは MEM2 へ」と、用途に応じて配置を選ぶ必要がありました。
Hollywood の GPU コアは、GC と同じく 2 MB の埋め込みフレームバッファ (EFB) と 1 MB のテクスチャキャッシュから成る、合計 3 MB のオンチップ 1T-SRAM を備えます。色と深度の演算は EFB 内で行い、完成した画像をフィルタリングしながら MEM1 または MEM2 上の外部フレームバッファ (XFB) へコピーします。Wii が映像出力を SD 世代に留めたことで、この小さく高速な描画経路を大幅に作り直さず、GC で実証済みの帯域効率を維持できました。